本好きの偏愛語り

vol.2 神と自然と不幸との向き合い方

福岡のまち

前回文章を書きつつ思った。
「ネタバレを極力せずに一冊の本を深掘りするのは不可能…っ!」

というわけで、今回からは乱読したものの中から何冊かご紹介します。ネタバレが絶対にNGな方は目次だけ見ていただければ本のタイトルはわかります(不親切で申し訳ない)

黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続

お得意のシリーズ途中から紹介。聞き役が交代して最初の一冊。第二部の一巻というところでしょうか。

三島屋変調百物語シリーズは、色々事情があって三島屋に身を寄せた「おちか」が聞き手として様々な怪異譚を「聞いて聞き捨て、語って語り捨て」にする物語。こちらはシリーズ第一作↓

ほっこりする話もあれば、胸が悪くなるような話やゾッとする話もある。力のある怪異譚は聞き手を巻き込むこともあり、なかなか油断のならないものなのだ。

これまでの聞き役おちかが表舞台から退場し、2代目の聞き役を果たすのがおちかの従兄弟である富次郎。飄々とした彼の人柄と、男性であるということから寄せられる話の色も少し変わったように思う。

収録作品は4話
・泣きぼくろ
・姑の墓
・同行二人
・黒武御神火御殿

中でもイチオシは「同行二人」。どうしようもない不幸に見舞われて泣くことも出来ず心を失くした飛脚の男と同じような不幸に見舞われて泣いて泣いて命を絶って顔を失くした亡霊が出会うお話。
ひどい不幸なのに誰に八つ当たりするでもなく、全部一人で背負いこんで飲み込んで、自分と向き合って苦しんで苦しんで、ようやっと抜け出た先は…救いのあるよいお話でありました。

最後に収録されている表題作はこれだけで長編一冊分はありそうなボリュームで読み応え充分。信仰について、人の抱える罪について考えることになった。信仰というものは見返りを求めるものではないし、自分と異なるものを信じることを咎める権利は誰にもない。
なににかはわからなくても日々生かされていることに感謝していればそれでいいのだと思う。

余談だが、すでに続刊の「魂手形 三島屋変調百物語七之続」も発売されている。
未読である(読めよ)

神さまたちの遊ぶ庭

「羊と鋼の森」で本屋大賞を取った筆者のエッセイ。てっきり小説だと思い込んで手に取ったら、エッセイだった。これがめっぽう面白い。

北海道のトムラウシという集落に山村留学することになった宮下家の一年。個性あふれる長男・次男・むすめ・夫とともにのびのびと送る日々のなんと楽しそうなことか。
もちろん大変そうでもある。なにしろトムラウシといえば、2009年にはツアーガイドを含む登山者8名が低体温症で死亡する事故が起きるほど厳しい自然に囲まれているのだ(そして宮下氏はそんなことは全く知らないままトムラウシに来てしまったのだ)。だがそんなことはものともせずに、子供は育ち親も育つ。笑って、笑って、ちょっとしんみりする一冊。

ちなみに本屋大賞を取った後の作家さんの大変さが伝わるエッセイはこちら↓

本屋大賞を取るような作品はもちろん面白いのですが、宮下氏はエッセイも面白いので、ぜひ機会があったら手に取ってみてください。

 

ホワイトラビット

もうわざわざ紹介しなくても…というくらい著名な作家さんですが、読んだらやっぱり良かったのでご紹介。

「ラッシュライフ」「重力ピエロ」にも出てきた黒澤が重要人物として今作も登場。
誘拐グループの一員ながらも妻(一般人)を人質に取られた男、兎田が引き起こす立て篭もり事件。対するSITの夏之目部長もいろいろワケあり。時系列が意図的にズラされていたり場面が目まぐるしく切り替わったりするので、翻弄されているうちに物語の構成が見事に描き出される。

今回のキーワードは「オリオン」と「レ・ミゼラブル」。もつれにもつれた白兎事件は、黒澤の手によって解決へと導かれる。もちろん悪役はあくまで憎らしく、悪役らしい退場の仕方をするのでノンストレス。

「やられた!」という気分を味わいたい方には特にオススメ。黒澤や夏之目部長の娘の含蓄のある言葉も印象深い。

終わりに

気まぐれに選んでご紹介しましたが、期せずして共通項がいくつか出てきました。それをタイトルとして、今回は締めましょう。
「神と自然と不幸との向き合い方」をこれらの本を通して考えるキッカケになれば、これに勝る喜びはありません。

 

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