vol.3 バイオレンスな日々に
こんにちは。詳細は省きますが、先日我が家族である猫2匹(完全室内飼いのお嬢たち)に脱走された「ちびすけ」です。平静を装った必死の呼びかけが通じたのか5分で帰ってきましたが、死ぬかと思いましたね。ええ。
そんな「死ぬかと思った」ことをキッカケに、今回は少々バイオレンスなものをご紹介しようかと思います。
相変わらず多少(?)のネタバレを含みますので、ご注意を!
ジェノサイド
第2回山田風太郎賞受賞、第65回日本推理作家協会賞受賞、「このミステリーがすごい!」2012年版1位、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門1位、「2012年本屋大賞」2位などなど…当時かなり話題になった作品。
難病の息子の治療のためにイラクで戦うアメリカ人傭兵イエーガーと日本で薬学を専攻する大学院生・研人。全く接点がないはずの二人のドラマが交互に語られ、いつしか「人類絶滅の危機」を防ぐための世界規模の計画に巻き込まれていく…という感じのお話なのだが、これがもう膨大な資料とインタビューと知性で支えられた超力作!初めて読んだ時は、こんな作品が日本で生まれる時代になったんだなぁ…と感慨深かった。
やりきれなくなるくらい醜く残虐な人間の姿が、これでもか!と描かれるけれど、そこから人を救おうと命の危険すら冒す人間の美しさも描かれる。
「利他的な動きをする人間は、普通の人類よりも少し進化した人間なのだろう」と断じたハイズマン博士の言葉が好きだった。 しかしこの作品、映画化は難しいと思う。本ならではの特性を生かし切って描かれた精緻な世界。 ラスト近くになると、この作品が山田風太郎賞を受賞したことにも納得できます。
読んだらわかる、これは一気読み必至!アドレナリンがかなり出ます(笑)
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女
スウェーデンの作家が書き、世界的なベストセラーとなって映画化もされた作品。上下巻の文庫。上巻の前半までは伏線とか説明なので少々時間がかかるものの、あとは一気!
主人公であるリスベットは全身ピアスと入墨だらけ。「さわるな危険」と自分にデカデカと張り出しているような痩せっぽちの女性だ。この作品ではまだまだ謎が多い(第3部までいくとかなりわかってくる)存在だが、自分を侮辱して虐待した人間に対する容赦ない反撃はスカッとする。
内容は少々入り組んでいるが、35年前の失踪事件&猟奇連続殺人事件と、もう一人の主人公である雑誌『ミレニアム』の発行責任者のミカエルを窮地に陥れた経済界の大物で悪党のヴェンネルストレムに対する反撃との二本立て。リスベットとタッグを組んだミカエルの活躍は、後半怒涛の展開を見せてくれる。
第1部の「ドラゴン・タトゥーの女」は英語版の題で、原題は直訳すると「女たちを憎む男たち」。リスベットの闘う相手すべてのことを指しているのかも知れない。このテーマは3部作全てに通じるものがある。
1部は昔ながらのミステリ、2部の「ミレニアム2 火と戯れる女」はアクション、3部の「眠れる女と狂卓の騎士」は法廷ミステリというように、趣向が違うのもまた楽しい。内容は重いので疲れるものの、それに倍する面白さがあるので時間があるときにぜひ。
実はこのシリーズ、作者が3部まで書いたところで急死していて、4部からは別の作家が3部までを読み込んで執筆している(ひとまず3部までは読んだ)。3部まででもまとまってはいるので、読んで「続きが…!」とはならないのでご安心を。
ただし2部はめちゃくちゃ続きが気になるところで終わるので、2部と3部は揃えて読むのがおすすめ。
その女アレックス
これは、一人の人間の闘いの記録。孤立無援の中あまりにも残酷で壮絶な体験をしながらも、戦って、闘って、闘い抜いて、自分の意志を貫いた人間がいたという物語。
“おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…”という序章なのだが、通り一遍のものだろうとあらすじで判断したら大間違い。二転三転するたびに登場人物を見る目が変わるほどの、どんでん返しに次ぐどんでん返し。途中ものすごく嫌な気持ちにもなるけれど、力を持った凄い作品。
この作品の主人公であるカミーユをはじめとする警察の面々もいい味を出している。アルマンは、誤解されやすいけどいい奴だなぁ。ラストの予審判事ヴィダールのセリフも良かった。
1巻と見せかけて実はシリーズ物の2巻で、気づかずこちらから読んだものの問題はあまりない。1巻にあたる「悲しみのイレーヌ」のネタバレがあるものの、こちらから読むと「その女アレックス」を読む気が失せる気がする。
なにしろ後味は最悪だし、大変に凄惨で残虐でうんざりするほどの暴力行為が描かれる(というか、他の作品からそういうシーンを選りすぐって抜き出しているのだから、そりゃもうえげつない)。
しかしながら、やっぱりどんでん返しが見事なので、ついつい最後まで読んでしまうのだった。この作品はそういうのがお好きな方以外は、心が元気な時に読んでください…。
そして3巻目として「傷だらけのカミーユ」があります。↓
タイトルからも分かるように最終的にカミーユはなにもかも失うし、カミーユを好きな人たちも、彼を救えなかったこと、彼から救いを求められなかったことに手ひどく傷ついた。なんだかなぁ…。それでも「面白くなかった」とは言えないのがこの作家のすごいところなのかもしれない。
余談だがこの作家さんの「天国でまた会おう」という作品の映画を観たら、これまたものすごい作品だった。絶望と狂気と苦しみと、そしてなぜか美しさを感じさせる。その歪んだ美しさが、映像化すると一層胸に迫る1本です。
ホワイトアウト
バイオレンスという定義からは少し外れてしまうかもしれませんが、一気読み度が高い名作。ちょっと古い作品になりますし映画化も漫画化もされているので、知っている方も多いでしょうがこれは外せない。
真冬の新潟県にある日本最大のダムを占拠したテロリスト集団「赤い月」。彼らは日本政府に50億円を要求、拒否すれば人質を殺しダムを決壊させると通告。タイムリミットは24時間。
偶然テロリストの手から逃れたダム運転員の富樫輝男は、人質の中に自分が救えなかった亡き友人の婚約者・平川千晶がいることを知り、ダム職員と平川千晶を救うため、単身テロリストへ挑み始める。
これがもう、読んでいる間中ハラハラ・ドキドキしっぱなし!言葉を尽くして説明して面白くなくなるよりも、とにかく読んでみてほしい。
あと平川千晶には富樫をそんなに責めるなと言いたい。
終わりに
ちびすけは幸いなことにバイオレンスとは無縁の日々を送っています。たいていの日本人はそうではないかとも思います。しかしながら、精神面ではどうでしょう。案外みんなバイオレンスな日々を送っているのではないでしょうか。
周囲の評価と戦い、有形無形の圧力をかけてくる相手を全力でスルーし、気まぐれに襲いくる自己嫌悪をなんとかかわす。そうやって日々をしのいでいる全ての人たちへ、闘う姿勢を教えてくれるこれらの本が少しの救い(もしくは現実逃避する少しの時間)となりますように。