本好きの偏愛語り

vol.5 夏に涼しくなる話

福岡のまち

こんにちは、毎日暑いですね~。
この暑さを吹き飛ばすべく、昔の人達は怪談などをしていたわけです。
正直この暑さのほうがなまじな怪談よりよほど怖いのですが(地球温暖化という側面から)、とりあえず今回はちょっとゾクリとする話など…。

残穢(ざんえ) 小野不由美

実写映画化もされたこの作品は、筆者の体験なのかフィクションなのかの境目が非常に曖昧でとても怖い。

作家である「私」に送られてきた、転居先の怪奇現象を綴った手紙。以前、同じ怪奇現象を綴った手紙を別人からもらったことがあると記憶を頼りに過去の手紙を読み返すと、住所が部屋番号以外は全く同じ。同じ物件だが別の部屋で起きる『怪奇現象』。興味を持った「私」が調べてゆくと…。

という感じの滑り出しなのですが、小野不由美さんの作品によくある怪奇現象のミルフィーユ構造のせいで状況は二転三転。一つ解明したと思ったら、次の原因が…!と、金太郎飴のようにどんどん話は続いていき、あげく福岡のある地域が舞台となるという地元民には二重に怖い仕上がり。

なにが怖いってこの「怖いこと」が非常に身近で、誰にでも起こりうるという話になっていること。しかもそれが、実話っぽく思えて仕方ない。このへんは実在の作家さんが二人ほどペンネームのまま登場していたり、「私」が明らかに小野不由美氏のことだと思わせる書き方のせいもあるでしょう。気づいたら作品世界に引きずり込まれて、自分も「逃げられない」感覚に陥っている。引っ越しがとてつもなく怖くなること請け合いの一冊です(褒め言葉)

そして『残穢』と内容が一部リンクしていると話題になった、筆者初の「百物語」がこの「鬼談百景」

こちらは短い不思議話がギュギュッと詰め込まれた短篇集。ゾッとする話もちょっと微笑ましい話も続きが気になる話もてんこ盛り。 学校怪談と夜の山道、トンネル系が多かった気がする。まず『残穢』を読んでから、どの話がリンクしているのか考えつつ読むのも楽しい。

ところで、こういう話で猫が絡むことはたまにあるのに、なぜ犬は絡まないのであろうか。犬と怪異は相容れないのかもしれない。

 

昨日の影踏み 辻村深月

こちらはちょっとマイナーかも知れない。本屋大賞も取った(かがみの孤城)人気作家が手掛けた13篇から成る怪談短編集。

友達が消えてしまった「10円参り」、実体験を書いたと思われる「私の町の占い師」などなど、不穏な空気を描くのが筆者は本当に巧い。特に2話目の「手紙の主」の奇妙なファンレター(?)は、禍々しい感じがしてさーっと寒くなる。実話っぽい話のほうがやっぱり怖いなぁ。文章の巧い人の怪談は怖いというのがよく分かる1冊。

短編は深く感想を言うとたやすくネタバレてしまうので、このへんで。サラッと読みたい時におすすめです。

ほぼ日の怪談 ほぼ日刊イトイ新聞

実話系怪談といえばこちら!

 

 

ウェブサイトほぼ日刊イトイ新聞で、2004年から続く長期連載『ほぼ日の怪談』その数ある実話の中から選りすぐりの作品を集めた120篇の実話怪談集。ホラー好きの家人は「けっこうマイルド」とか言っていたが、かなり怖かった。なにが怖いって全部実話ってところ。個人的には全く見えない・感じない人間なので、よけい怖いのかもしれない。 あと、猫はけっこう助けてくれる子が多いみたいだなぁ。こっちでも、猫。

背後とかカーテンの隙間が怖くなるような話から、切なかったり温かい気持ちになったりするような優しい不思議な話まで各種取り揃えてあるので、ちょこちょこと読んでいくのがオススメ。

ちなみに本自体にもちょっと怖い仕掛けがあるので、読むとき要注意。気づいた時は「ギャッ」となります。

 

魂でもいいから、そばにいて 奥野修司

こちらは全然怖くないですが、紹介しておきたい実話集。

3・11以降、様々な人が体験した、大切な人の存在を感じる霊体験を聴き集めた一冊。怖さは全然なくて、哀しくて優しい話が多かった。

ドキュメンタリーとして読んだり分析したりする人、「霊がいるのかいないのか」ということに拘る人には不向きな本ですが、ただあるがままに話を受け止めてそこから自分なりに「生」と「死」について考察する人にはおすすめです。

大切な人がなくなったら、夢でも霊でもいいからそりゃ会いたいと思うよなぁ…。

 

終わりに

いかがでしたでしょうか?真正怖い物好きという方には少々生ぬるい品揃えかとも思いますが、当方もともと怖がりでホラーは苦手なもので、ホラー作品はあまり読んでいません。布団から足が出せなくなったり、シャンプーしてる時に後ろが気になったりするので…。

ところで実話系を読んでいると、しばしば飼い主を救ってくれたりする猫の話に遭遇します。あれは一体何なんでしょうね。うちのお姫様たち(二匹)もいざという時は助け……いや、助けてくれなくていいや。猫は「かわいい」が仕事で、それ以上は望んではいけないのだ。

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