【福岡2021インタビュー produced by 福博ツナグ文藝社】第1回 テーマ「現代アート」

福岡のまち

森田俊一郎さん

ゲスト:森田俊一郎さん
(ギャラリーモリタ 代表/アートフェアアジア福岡 実行委員長)

福岡市在住の “街と人をつなぐ” イベントコーディネーター・ライター 西山健太郎(非営利団体福博ツナグ文藝社 事務局長兼編集長)が、各界のスペシャリストをお招きして、現在の活動やこれからの展望についてお話を伺う【福岡2021インタビュー】
第1回のテーマは「現代アート」
ゲストに森田俊一郎さん(ギャラリーモリタ 代表/アートフェアアジア福岡 実行委員長)をお迎えします。

最初に、森田さんがギャラリストになったきっかけについて教えていただけますか?

私は大学卒業後、大手商社に就職し、国内外を飛び回っていました。
一方、私の弟は大学時代に渡仏して以来、未だに彼の地に居座り続け、まさにフランスの土地や文化に心酔しきっています。
商社での仕事はとても充実していましたが、あるとき「芸術に関わる仕事を手がけたい」という思いが沸々と湧いてきて、一番初めに頭に浮かんだのがフランスという国でした。
弟から伝え聞いていた文化大国・フランスに住む人々の時間の使い方、人生の過ごし方。そうした哲学に接し、自ら学びたいと考えたのです。
当時弟が勤めていた世界的企業の保養地がニースにあり、休暇を取ってしばらくそこに滞在しました。旅行者の目線でなく、居住者として彼らの文化に触れてみるという体験をしたわけです。
その滞在を通して、フランス人が自国文化を背景にして、心の底から自分の人生を楽しんでいることを実感し、「文化の継承とは時間の尊さを伝えること」だと確信しました。
そして帰国のため、ニースからパリに戻ったとき、たまたま入ったギャラリーに展示されていた絵に強く惹かれました。
あとで知ったのですが、その作者はジャン・ミッシェル・バスキアだったのです。全財産を注ぎ込んでその作品を購入していたら、のちの私の人生は一変していたことでしょう。しかし当時の私は、そうした器量を持ち合わせていませんでした。アートの知識や情報は、人の人生を変えることだってあり得るということを肌で知ったわけです。
「商社でいわゆるマスプロダクツ(大量生産品)を売ってきたけれど、それって僕でなくても誰かができる。それよりも僕にしかできない、この世に一つしかない作品を紹介することの方が自分に合っているのではないか」
私がギャラリストになった理由は、その考えを抱いたことに尽きると思います。

そして森田さんは、ギャラリーだけにとどまらない活動を展開してこられました。

一日のほとんどをギャラリーで過ごすギャラリストも多いと思いますが、私はどちらかというとアウトリーチというか、ギャラリーの外に出ていく方が性に合っていると思います。もしかしたら商社勤務時代に身についたものかもしれませんね。その方が、たくさんの情報が舞い込んでくる様な気がします。そして、作品の売買にとどまらず、イベントの企画やホテル・文化施設の活用などに携わったことにより、結果的に貴重な人脈を得ることにつながったと思います。

私が企画・運営に関わった、けやき通りのギャラリーをワイングラス片手に巡るイベント「ギャラリー梯子酒」の開催にもご尽力いただきました。

ギャラリーという場所は、アート作品に囲まれた、いわば「知の森」です。だからこそ、作家とギャラリスト、そしてお客様との良好な信頼関係や交流が生まれやすいのです。
基本的にギャラリーを訪れるお客様は1人か2人で来られます。そうすると必然的に会話が生まれます。情報を交換し、会話を重ねていくことでお互いの共通点を見出すことができます。そして、共有する価値観を認め合うからこそ、夢を語り合うことだってできます。そうした人と情報をつなぐコミュニティないしはサロンとしての機能がギャラリーにはあるのです。
とはいえギャラリーは、一度も訪れたことがない人にとっては、敷居がかなり高く感じられるかもしれません。そうした側面をイベントの開催という形で取り払い、より多くの人々にアートに触れる機会を作りたいという私の思いと「ギャラリー梯子酒」のコンセプトが一致し、開催の運びとなりました。
結果は大正解でしたね。それまでギャラリーに来たことがなかった方々との交流が生まれ、さらには作品を初めて購入されるお客様もでてきましたので。そして、ボランティアで運営に関わってくださったスタッフの皆さんとの出会いや交流も、従来通りのギャラリー運営をしていたのでは得られない貴重な体験でした。

次に、今回2年ぶりに開催されるアートフェアアジア福岡についてお伺いしたいと思います。

アートフェアというのは、現代アートの作家や作品を一同に紹介するギャラリーショーのことです。美術館・博物館で開催される展覧会と大きく異なるのは、出展作品のほとんどが購入可能なことです。アートは鑑賞を目的とした展示の場合と、購入可能な空間で展示される場合とでは、全く表情が違います。
福岡で初となるアートフェアは、2015年9月に西鉄ソラリアホテルの14階フロア27 室に国内外から27のギャラリーが出展して開催されました。第2回からはホテルオークラ福岡に会場を移し、2019年の第5回は、ホテルオークラ福岡9階フロアの38室と福岡三越 9 階の催事場の 2 会場で4日 間開催され、過去最多となる5000名を超える来場者数を記録しました。
昨年は中止となりましたが、今年は、9月22日(水)から26 日(日)までの 5 日間、博多阪急の8階催場と7階のイベントホール「ミューズ」に全国から 45 ギャラリーが集結して開催されます。100名以上の作家、1,000点以上の作品と出会えるまたとない機会で、入場料も無料ですので、ぜひ多くの皆様にご来場いただきたいですね。
今回のアートフェアの開催にご尽力いただいた一人が、博多阪急の催事担当者である米村義則さんです。米村さんの熱意と努力で開催に至った、と言っても過言ではありません。私は常々、「震源地は一人」という言葉を心に留めています。どんなに大きな組織であろうと、たった一人の行動が人々の心を揺るがし、集団を動かし、社会を大きく変えていくのだと信じています。今回はまさに、それを実感しましたし、これこそアートが持つ力だと再認識しました。

ギャラリーモリタからは、どういった作家を紹介されるのですか?

当ギャラリーから出展を予定している作家は、平松宇造さん、シーズン・ラオさん、吉田重信さん、櫻井共和さん、そして鳥越一輝さんの5名です。
平松宇造さんは、インスタグラムのフォロワーがすでに5万人を超えている、海外の多くのアーティストからリスペクトを受ける作家の一人です。今回、博多阪急では、9月15日(水)から26 日(日)までの12日間、 全館を挙げて「HAKATA ART STATION」というアートイベントが大々的に開催されますが、その前期にあたる9月16日(木)から21日(火)まで、7 階のイベントホール「ミューズ」にて、平松さんと SNSを通して交流する国内外の作家を紹介する展覧会「SNS ─ Share Next Stage ─ 平松宇造と敬愛しあう世界のアーティストたち」が予定されています。日本ではこれまでほとんど知られていなかった平松さんが、実は世界とこんなにもつながっている、という事実に触れることで、観客のお一人おひとりが、ご自身の価値観について再認識される。そうした機会となれば、企画者の一人として嬉しく思います。
また、鳥越一輝さんは、私が現在最も注目している気鋭の作家の一人です。何よりも画材の特性を活かした作風が素晴らしいと思います。技巧にとらわれるのではなく、抽象であれ具象であれ、そのモチーフの本質を独自の画法で描くダイナミズムは、海外の目の高いアートファンにも十分通用するものだ と思っています。ぜひ会場にてその作品の数々をご覧ください。

最後に、森田さんのこれからの夢や抱負についてお聞かせいただけたらと思います。

アートフェアアジア福岡の第1回開催の折に、出展ギャラリーのギャラリストと情報交換するなかで、年間売上の8割から9割が海外での販売に占められる、というギャラリーが多数存在することを知り、驚愕し、日本のアート市場の小ささを痛感したことを今でも鮮明に覚えています。
実際に、現在全世界のアート市場の経済規模は7兆円とも8兆円ともいわれており、そのおよそ8割がアメリカ・中国・イギリスの3か国で占められています。ちなみに、日本の市場規模は 500 億円から1000億円程度とされており、 先進国の中では最低レベルです。
とはいえ、言い方を変えると、日本にはこれからの大きな伸びしろがあるということです。しかも、私自身、世界各国のアートフェアを見てきましたが、日本人の作家の作品は決して他国のアーティストに引けを取るものではありません。日本人ならではの繊細で奥行きのある作品はこれからも世界各国のアートファンを魅了していくことでしょう。
私は現在福岡を拠点に活動していますので、福岡や九州ゆかりの作家や私自身の活動の中で出会った作家たちと一緒に世界のアート市場に乗り込んでいき、この地域の文化とともに、世界中の人たちを魅了していきたいと考えています。

――本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。森田さんの今後ますますのご活躍を期待しています。またアートフェアアジア福岡の開催も楽しみです。

【関連リンク】
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アートフェアアジア福岡
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※本稿は、毎週月曜夜9時にClubhouseにて配信中の『月9福岡応接間 produced by 福博ツナグ文藝社』を編集・再構成したものです。

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