vol.10 深夜に読んで欲しい「飯テロ」もの その2
以前に宣言していたとおり、「飯テロ」ものシリーズ第二弾!
誰も待ってないかもしれないけど、第二弾。
自分が紹介したいから…な、泣いてなどいない。
読むだけで色々食べたくなって、幸せな気分になる。もちろん食べたくなって悶えることにもなるのですが、わかっていながら深夜に読んでいても立ってもいられなくなった気持ちを共有していただきたい作品がコチラになります!
BAR追分 伊吹有喜
シリーズ物で、2作目「オムライス日和」3作目「情熱のナポリタン」と続きます。
昼はバール、夜はバー。ふたつの顔を持つ「Bar追分」のある、新宿『ねこみち横丁』を中心にした人情物語。メインキャラクターである、宇藤青年はシナリオ・ライターを目指して数々の賞に応募してきたけど目が出ない日々を送っている。そんな彼は、ふとしたきっかけから「BAR追分」のホームページ作成を依頼され、そこから様々な人と出会って成長してゆくことになる。
基本的には人情物で泣かせるお話も多く、もちろんお約束の美味しそうなご飯も出てくるし、濃いキャラクターたちの動きもおもしろい。
この1冊で個人的にものすごく食べたくなったのは「牛スジカレー 温玉のせ 650円」。
『牛スジのカレーは、他の肉のカレーにくらべて、スジが煮とけた分、ルーがぽってりとしてコクがある。そこに卵の黄身が合わさって…』あああ!1,000円払うから食べさせてくれー!
物語としてのイチオシは、4本入っているお話の中の最終話「ボンボンショコラの唄」。
これがまた本当にいいお話で、『ねこみち横丁』の有名人・アフロ頭の梵(ぼん)さんと、クラブのママをしている美女・遠山 綺里花をめぐる物語。ラスト近くの「俺のゴージャス」っていいセリフだなぁ。
他にもハンバーグサンドも食べたいし、コーヒーも飲みたい。お昼に猫たちを眺めつつ、バールで食事して本読んで…といった妄想がふくらみ、新宿行って『ねこみち横丁』探したくなってくる。
BAR追分の第2弾では、うどん、オムライス、餃子、生パスタ、豚の生姜焼き…。ああお腹がすく。2作目では主人公の宇藤くんは、第三者の目から見られることが多いけど、端から見た彼はとても好青年だなぁ。1作めでは本人の視点なので、彼の良さはわかりにくかったかも。
BAR追分シリーズ3作目ではお好み焼き、自然薯と親子丼、蜜柑、ナポリタン。宇藤くんが人気で異色な劇団主催者にスカウトされ…この先はネタバレのため自粛。食と人生の分岐点で様々な選択をする人たちの人生ドラマ。ナポリタンと秋の親子丼、メロンパンが食べたいなー。
猫とご飯がお好きな方には、特におすすめのシリーズです。
マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ 古内一絵
全4冊で完結しているシリーズもの。
23時の夜食カフェ『マカン・マラン』のオーナー、シャールさんは「格調高きドラァグクイーン」。深夜にしか営業しない隠れ家のようなお店でシャールさんが提供する手料理はどれも暖かく、その人が一番必要としている栄養素と美味しさが詰まっている。
春のキャセロール、お米パン、女王なサラダ、アドベントスープ。言葉だけでは想像もつかない料理たちは、作り手の優しさと滋味にあふれている。そんな料理の美味しさはもちろん、シャールさんの「この世界に、本当になにもかもから自由な人なんて、どこにもいないわ。」という台詞が心に残る。
日々の生活にくたびれたり傷ついたりしている人々が訪れては、ひとときゆったり寛いで心と身体の栄養補給をするようなお店。こんなお店、どっかに隠れてないかなー。
作品は「ふたたび」「みたび」「おしまい」と続き、どの作品も寂しくて一生懸命な人たちへのエールのように思えて、読んでいると励まされる。
世の中にはいろんな人がいて思いもよらないようないろんな事があるけれど、自分の心と体に向き合って美味しくて温かいご飯をきちんと食べて、自分を大切にする事。簡単に思えるかもしれないけど実はとても難しい事を、この本を読んでいるとやってみようかな、と思えるのだ。
八朔の雪 みをつくし料理帖 髙田郁
こちらは映画化やドラマ化もされているので、もうご存じの方も多いであろうシリーズ。でも紹介したい!
飯テロとしても秀逸だが、展開してゆくドラマがまたすごい。ちなみに番外も含めて全部で12冊ありますが、読む価値はあります!年末年始などのまとまった休みがあるときにぜひ!
享和2年(1802年)。大坂で起きた淀川の決壊で、主人公・澪(みお)は両親と死別、仲の良かった幼馴染・野江(のえ)は生死不明。そんな澪は「天満一兆庵」の女将・芳に助けられ料亭で働いているうちに主人の嘉兵衛から優れた舌を認められ、女性では異例ともいえる調理場に入ることの許可をもらい料理人になることに。
そんな澪が紆余曲折あって江戸で料理人をしているところからが本筋です。そう、大阪時代は物語の発端ではありますが、本舞台ではありません。江戸でなんとか勤め先を見つけた澪は大阪の人々との食文化の違いに驚き、自分の料理が通じないことに悩み、同業者の陰湿な嫌がらせにもあい…これだけだとストレスフルな話に思えるでしょうが、そこからの巻き返しがすごいのです!
第一巻では「ぴりから鰹田麩、ひんやり心太、とろとろ茶碗蒸し、ほっこり酒粕汁」が登場。寒い時期は茶碗蒸しが魅力的すぎる!酒粕汁も食べたい!巻を追うごとに食べたいものが増えていく、この無限ループ!
澪を雇い入れ、なにかと助けてくれる「つる家」のご主人・種市や一緒に江戸にやってきた女将の芳、なにかと助けてくれる長屋の面々など、登場人物たちも全員非常に個性的。正直「愉快な仲間たち」という言葉にふさわしいキャラクターが多い(笑)。敵役はもちろんどうしようもなく憎らしく、絶体絶命のピンチが何回も襲ってくるという念の入れよう。しかし転んでも踏まれても絶対にくじけず、まっすぐに目標へ向けて歩んでいく澪の前に敵役も運命も最後は膝をつくことになるのでご安心を(あっ、ネタバレ?)
続きがものすごく気になるところで終わる巻もあり、発行されるたびに買っていた身としては全巻揃って読める人がうらやましい!追いかけていた頃は「ここで1年待ち!?」と叫んだものでした。
お財布と時間に余裕がある方は、全巻揃えてから読むのもいいと思います。続きが気になりすぎて睡眠時間を削るハメになるかもしれませんが…。
終わりに
今回は飯テロは飯テロですが、料理を通して苦しみを癒やしてくれる人の優しさ、強さ、希望、喜びなどを描いた作品が多くなったように思います。
美味しいものを食べて、心まで暖かくなったとき「ろくでもない日だったけど、ごはん美味しかったからまぁいいや」とか、「あー、これが食べられてよかった。生きててよかったー」とか思うことは、絵空事だと思いますか?ちびすけはけっこう現実にもそんな事あるんじゃないかなと思っています。ただ、自分が追い詰められている時って「なにか美味しいもの(温かいもの)食べよう」って思いつかないし、実行できないのがネックかなと。
そんな時、こんな本たちに出会って食事する気になったり、読むだけでもなんだか救われたりしたら、本当にいいなと思いつつご紹介しました。
もちろん、深夜に「○○食べたーい!」と。もだもだしていただきたい気持ちもありますが(笑)