本好きの偏愛語り

vol.6 深夜に読んで欲しい「飯テロ」もの その1

福岡のまち

読むだけでお腹がすくような作品、この作品に出てくる【これ】を食べたい!と思わせる1冊に出会ったことはありますか?私はむかーしから「飯テロ」系の小説やエッセイ、漫画が大好きで色々読んできました。
「飯とミステリ」とか「飯と時代劇」とか「飯と人情」など、様々なジャンルと相性がいいということもあるのか、今では本当に読みきれないくらい多くの本が出版されていますね。

もともと「食べること」は好きで食い意地もはっている方だと思いますが、たいていのものは「旨い」と言い、量も食べられないのでいわゆる「食通」ではありません。いいとこ「食いしん坊」でしょうか。食い意地と胃袋の許容量が釣り合っておらず、現実では「食べたいのに食べきれない」という事態になることもしばしば。

そこで「飯テロ」ものの登場です!文や漫画ならどれだけ摂取してもお腹いっぱいで食べられないようにはならない。素晴らしい!そんな食い意地がもたらした読書遍歴を今回はご披露します。

 

初ものがたり 宮部みゆき

超がつく人気作家・宮部みゆき氏の時代劇短編集。
本所深川一帯をあずかる「回向院の旦那」こと岡っ引きの茂七親分が出会った、正体不明の稲荷寿司屋台の親父(どうやら元はお武家様らしい)。江戸の四季を彩る「初もの」を使った旬の一品と小ぶりで艶のいい稲荷寿司を提供してくれる親父の屋台。ここの食事がもうめっぽう美味しそう!

元祖・飯テロ作家の池波正太郎氏(よく軍鶏とかを煎りつけたり、炊き込みご飯を作ったりする)の流れをくむ食事の描写はうっとりするほど秀逸。鰹、白魚、柿、菜の花、など様々な食材が登場しますが、個人的に惹かれたのは「蕪汁」。上手に煮られてとろける食感の蕪汁(赤出汁)がなんとも美味しそうで、赤出汁ではありませんが思わず蕪の味噌汁を作ってしまいました。美味しかったです。

手掛けた事件について悩んだ親分が、食事ついでに稲荷寿司屋の親父に話すと重要なヒントになる言葉を親父が返してきて…という感じで難事件が解決へ導かれていく。その手際もお見事!
人情と季節感に溢れたこの作品、本当はもっと続きがあるはずなのですが(稲荷寿司屋の親父も訳ありっぽいのに正体不明のまま)、いまのところこの1冊で止まっています。
※新潮社からも同名の文庫が出ていますが、後に3篇の新作が足されてPHP研究所から出版されたのがこちら。もちろん両方買いましたよ、ええ。

ところが、この親父の正体が分かる作品が近頃(といっても一年前)刊行されたというではないですか!
それがこちらの「きたきた捕物帖」

こちらはまだ未読なのですが、そのうち読もうと心に決めています。(読んでから紹介しなさいよ…)

 

丸かじりシリーズ 東海林さだお

子供の頃から読んでいて、ものすごーく影響(今日はトンカツが食べたいとか、親子丼食べたくなったとか…)を受けたエッセイ。今の人格形成にも一役買っているかもしれない。
丸かじりシリーズは『週刊朝日』の長寿連載「あれも食いたいこれも食いたい」を定期的にまとめたもので、こちらは第一弾。調べたらすでに41作目まで刊行されていた。漫画家でもある東海林さだお氏は、エッセイもとんでもなく巧い!

 

身近で庶民的な食べ物の数々に改めて光を当てて、「そうそう!ここんとこが美味しいんだよネー」とか「そんな食べ方が!」といった発見が赤裸々に描かれる。独自のオノマトペ、食品の擬人化、ありえない設定での食事に関する設問などなど…どのエッセイも抱腹絶倒。

シリーズは沢山ありますが、どこから読んでも問題なく面白くて気軽に手に取れるところもおすすめ。今はなかなか難しいですが、旅や出張に出るときにちょっと寄った本屋で文庫を手に取る際にはイチオシです!(なかなか汎用性の低いシチュエーションを推してきたな)もちろん、寝る前の読書にも。
たまに、そう、本当にたまーに、夜中にラーメンとかカレー食べたくなって困りますけど…。

 

メイン・ディッシュ 北森鴻

小劇団「紅神楽」を主宰する女優・紅林ユリエの同居人・ミケさんは料理の達人。劇団員はミケさんの料理目当てにユリエの部屋に集まり話に花を咲かせる。そんな話の中で出てきた「謎」まで見事に料理してくれるのが「ミケさん」という謎に満ちた人物。残念なことに筆者は48歳で鬼籍に入られており新作は望めませんが、舌と口は料理で頭は謎解きで忙しく楽しい1冊(結局はぜんぶ脳で味わっているのだが)。

連作短編集という形式で、一つの話ごとに謎と美味しそうな料理がお酒と共に提供されて、ラストには大きなどんでん返しあり。ミステリとしても優れた作品なので、いろんな楽しみ方ができてお得です!
ワンコインカレーとかグルテンのフリッターとか松花堂弁当とか色々あったけど、ミケさんのタマゴチャーハン…食べたいなぁ。

同じ作家さんで、ぜひとも行ってみたいと思わせるビアバーが舞台となった「香菜里屋(かなりや)シリーズ」もおすすめ!

 

三軒茶屋の路地裏にたたずむ、ビアバー「香菜里屋」のマスター工藤が、客が持ち込む謎を解くタイプの連作短編ミステリ。シリーズは4作で完結。
度数や産地の違う様々なビールを揃え、さらにとびっきりの料理まで提供してくれるビアバー「香菜里屋」は酒飲みの夢だ。こんな店に行ってみたいし、もしも見つけたら誰にも内緒にして足繁く通うかな。それともとっておきの人にだけ教えるだろうか…などと想像するだけでも楽しい。

この作品ではお酒が飲めない人でも疑似体験できるかもしれない。読書は一種のVRなのではなかろうか。

愛がなくても喰ってゆけます よしながふみ 

こちらは「きのう何食べた?」「大奥」で知られる作家さんの、エッセイのように見せかけた「飯テロ」漫画。

 

もともと「食」が大好きな筆者が初めて手掛けたグルメショートショート。主人公は漫画家で本人がちょっと「変」と言われてしまうくらい食事にこだわりあり。さらに主人公のアシスタントや友人、知人たちと食べ歩くシーンが本当に食べ歩いてるんだろうなぁという臨場感。
お腹が空いている時に読むとなかなか辛いくらい美味しそうな作品です。「絵」が付いていると食欲に対する訴え方が暴力的…!丁寧で細かい描写と食に対する愛が画面から溢れて滴っている。

実在のレストランについて書かれている部分もあり、在住エリアがかぶっている人にはガイド本としても役立つかも?一応ちょっとした人間ドラマもありますが、あくまで「食」がメインのためストーリー展開はとても淡泊です。だが、そこがいい。「食」を堪能したい時に大きなドラマはなくても問題なし!

主人公の友人で馬鹿げて甘党な人間が「塩分をしばらく取らないでいると身体がだるーくなるのよ」的なことを言っていたが、あれは実体験じゃないといいなぁ…。

 

終わりに

個人的に好きな「飯テロ」ものの紹介でしたが、いかがでしたでしょうか?まだまだ他にも紹介したいものがいっぱいあるので、このシリーズに関しては続ける気まんまんです。

今回ご紹介するために深夜に作品を読み返したりして「…っっっっつ!ゔぁーーーーっ!」と喚くはめになりました。なかなか体験できない空腹感というか飢餓感というか…皆様にもぜひこの貴重な体験を共有していただきたく、ぜひこれらの作品は深夜にお読みください(最後に出てくるタイトル由来)。

さいごに、皆様の毎日の「食事」が味わい深く、楽しいものでありますように。

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