『CAMKコレクション展Vol.7 未来のための記憶庫』熊本市現代美術館 2023年4月29日(土・祝)〜 6月25日(日)
2023年4月29日から6月25日まで熊本市現代美術館にて展覧会『CAMKコレクション展 Vol.7 未来のための記憶庫』が開催されています。
私たちにとって「美術館」は「展覧会、展示を観に行くところ」という認識が大半です。それも美術館の大きな役割のひとつ。しかしそれと同じくらいに重要な役割が美術館にはあります。それが「コレクション」をめぐる仕事です。美術館の収集・収蔵とはどういうことなのか、この展示から考える機会になりそうです。
熊本市現代美術館の収集方針とは
熊本市現代美術館の作品収集方針にはその収集対象の基準として、地元ゆかりの作家の作品、国際展などで発表された優れた作品、自館の各展覧会で紹介した作家の作品、といった事項が掲げられています。今回の展示はこれらの方針に対応する構成で、地元の美術史をさまざまな側面から物語る作品群から、世界的作家が熊本での展示を機に制作したコミッション作品、近年の時代状況を反映した若手作家の仕事までコレクションのエッセンスが紹介されます。
展示作品紹介(一部)
大山清長《裸婦》1989 キャンバス、油彩
熊本市現代美術館蔵
木下今朝義《収容所時代》1998 キャンバス、油彩
熊本市現代美術館蔵
川内倫子《川が私を受け入れてくれた》シリーズより 2016 発色現像方式印画
熊本市現代美術館蔵 © Rinko Kawauchi
2016年に開催された個展「川内倫子 川が私を受け入れてくれた」にあたって、コミッションワークとして制作された作品群。制作にあたって熊本県内の思い出の場所とそれにまつわるエピソードを公募し、その中から川内さんが選び、そこに足を運んで撮影されました。そこにはそのエピソードと川内さん自身の過去の記憶や気づきも重ねられています。写真の近くに配置された言葉は、寄せられたエピソードの断片です。展示では写真とその言葉の間に必ずしも直接の関連はないけれど、二つが合わさったとき見る者にとってそれぞれの風景や記憶が呼び起こされる気がします。2016年といえば熊本地震発災の年、いろいろなことが思い起こされました。
センターにいるのは「ゴッド・ファーザーPART3」のアル・パチーノではないですか。この作品は、2008年「映画看板師〜田上賢二展」の際、実演イベントで制作された作品『月曜ロードショー看板 』。昔は熊本にも映画館がたくさんあってこんな手描きポスター看板が飾られていたんですね。未来でこれを見た人は映画館にはこういう文化があったということを知る機会にもなります。
マリーナ・アブラモヴィッチ《Count on Us (Star)》
2003 映像インスタレーション 熊本市現代美術館蔵
© Marina Abramović Courtesy of the Marina Abramović Archives
映像作品も収集の対象です。この作品『Counton Us』は2003年にマリーナ・アブラモヴィッチの回顧展「The Star」を開催した際に新たに制作されたもの。美術館の提案により、アブラモヴィッチは26年ものあいだ離れていた故郷のベオグラードに帰り本作を制作しました。展示空間内は5つのイメージ(映像)から構成されています。中央には作家自身が扮する骸骨の指揮のもとで、国際連合を讃える歌をうたう子供たち。しかしユーゴスラヴィアをめぐる数々の悲劇の歴史をふまえれば、その歌詞は皮肉にも聴こえてきます。美術館のフリーゾーン、図書室の本棚もアブラモヴィッチの作品です。
日比野克彦《AURO》《NITO》《TUTU》1995 ダンボール、アクリル、色鉛筆、ジェッソ
熊本市現代美術館蔵
日比野克彦館長が熊本市現代美術館の館長になる以前に収蔵された作品群。「作者は自分の作品とこのようにじっくり対峙することはほとんどない。こうやって展示されている空間だからこそ、自分のこれまでとこれからを考えるきっかけになったり、過去の作品に対して検証していく重要な時間になる」と日比野館長。美術館という空間にはそういう力がある。作者という立場から展示と収集について語っていただきました。
浦川大志《熊本駅から風景(撃つ用意)》2019 パネルに綿布、ジェッソ、アクリル
熊本市現代美術館蔵
陸揚《器世界の騎士》2018 3チャンネル映像
熊本市現代美術館蔵
MPS-15sk”Multi”: © IKEUCHI Hiroto
ルー・ヤンの映像作品は個人的に記憶に残っています。2018年「魔都の鼓動 上海現代アートシーンのダイナミズム」展で制作、展示され収蔵されることになりました。当時観たときと、こうしてまた作品を観ることになったとき、少し違った自分のとらえかたがあるのに気づきました。時を経て作品を通して自分自身の変化に気づかされる瞬間です。
展覧会は会期が終わると私たちが直接目にすることはなくなりますが、その作品群の一部が美術館のコレクションに組み込まれることによって企画や作品の記憶が未来に生きる人たちに共有されていくことになります。コレクション作品を通して熊本を知り、作品の作者、美術館の方々、展示を観た人(自分も含めて)、それらの記憶が全てコレクションなのだと感じました。作品を通してさまざまな情報を自由に体感し学び知るために、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
関連イベント
2,3については、以下の事項を記載の上、下記申込先にメールにてお申し込みください。
(1) 参加希望のイベント名 (2) お名前 (3) 電話番号
申込先:gamadas@camk.or.jp
作品や資料は、それ自体がさまざまなことを物語るものであるのと同時に、人の記憶を呼び覚ます触媒にもなりうるものです。このイベントでは、出展作品の制作過程や展示、収集などの場に関わった人々とともに会場を回り、各作品にまつわる記憶をよみがえらせ、ご来場の皆さんと共有したいと思います。イベント中は、一般参加者からの発言も大歓迎です。
■日時:4月29日(土・祝)14:00-15:00
■アテンド:佐々木玄太郎氏(熊本市現代美術館 主任学芸員)ほか
■場所:展覧会会場内
■定員:15名 要展覧会チケット 事前申込不要
当館にはいわゆる「常設展示室」はありませんが、館内のさまざまな場所に建築と一体化した形で作品が設置されています。このツアーでは各作品をめぐり、制作当時のことも振り返りつつ、パーマネント作品のおもしろさと難しさの両面についてお話しします。
■日時:5月7日(日)/6月3日(土)14:00-15:00
■アテンド:冨澤治子氏(熊本市現代美術館 主査・学芸員)ほか
■場所:館内フリーゾーン
■定員:各回15名 参加無料 要事前申込
熊本市民にとって最も身近なアート作品といえば、熊本市役所に点在している地元作家のそれかもしれません。このツアーでは、風景の一部として慣れ親しんでいるそれらの作品に改めて注目し、その制作時の構想と現在の状況を見比べながら、課題も含めた「パブリックなアート」のあれこれについて考えます。
■日時:5月24日(水)/6月16日(金)14:00-15:30
■アテンド:佐々木玄太郎氏(熊本市現代美術館 主任学芸員)ほか
■場所:熊本市役所 庁舎
■定員:各回10名 参加無料 要事前申込
現代の表現者たちは、パフォーマンスやアート・プロジェクトといった形に残りにくい表現手法を用いて活動を行うことも少なくありません。それらは現在の表現活動の重要な一部ですが、美術館のコレクションは果たしてそれらをどのように扱いうるのでしょうか? 文化財・芸術の保存と継承を専門とする研究者で、当館の収集活動にも関わっていただいている平諭一郎さんを講師に招き、当館の直近の収集活動も例に挙げながら、その考え方についてお話しいただきます。
■日時:5月13日(土)14:00-15:30
■講師:平諭一郎氏(東京藝術大学 未来創造継承センター 准教授/熊本市美術品等収集審査委員会委員)
■場所:ホームギャラリー
■定員:50名 参加無料 事前申込不要
展覧会概要
会期:2023年4月29日(土・祝)〜6月25日(日)
観覧料:一般600(500)円、シニア65歳以上500(400)円、学生〔高校生以上〕400(300)円、中学生以下 無料
*( )内は前売/20名以上の団体