Vol.9 青春の疑似体験は楽しい
「青春」=若くて元気な青年時代
というのが定義らしいが、実際のところ「青春」に年齢制限はないのではないかと思う。
そして「青春」なんていうものは、渦中にあるときには意外と気づけない。歌の歌詞にもあるように、あとから思ってキラキラしてたなぁなどと、シミジミするものだ。
ところが、小説や漫画、映画、ドラマなどの「お話」だったら青春を疑似体験しつつ様々なジャンルの青春が味わえるのだ!幾つになっても!なんて素晴らしいフィクションの世界!
というわけで、今回は「青春」をテーマにおすすめ本を選んでみました。
「夜のピクニック」恩田陸
青春モノと言えば、結構な確率で紹介されているであろう名作。本屋大賞を受賞した話題作でもある。
正統派・高校生の青春。
とある進学校で行われている「歩行祭」というイベントが舞台。朝の8時から翌朝の8時まで80キロを歩き通すという伝統行事を通して、高校生たちの秘めた思いと人間関係を描いた物語。
自分なら夜を徹して24時間歩きとおしなんて、高校生の頃だとしても絶対にお断りだと思う。
適当なところでリタイアしてお終いではないだろうか。こんな人間に青春はない(笑)
主人公である高校3年の甲田貴子は、この「歩行祭」の最中に自分の中で小さな賭けをしている。
自分を徹底して嫌っている西脇融(とおる)と無関係ではないその小さな賭けは、友人たちと歩きながらのお喋りや様々な人達の思惑と相まって、貴子にとっても思いがけない展開をみせる。
「夜を徹して友人たちと歩く」という『非日常感』。恋愛や友情といった「青春」ももちろん描かれるものの、甲田貴子と西脇融の二人はどちらかというと冷めたタイプでなかなか簡単に熱くなったりはしない。どこか一歩引いて客観視しているような二人だが、それでもやっぱり終盤には心を震わせたり思い悩んだり吹っ切ったりして「青春」だねぇなどと思わせてくれる。
キツくても辛くても、向き合って愚直にひたすらなにかをやり抜いた記憶っていうのは、心の糧になるものだ。
それがわかる歳になってから、再度読み直すとまたちょっと違った楽しみ方もできる一冊だと思う。
「二百十番館にようこそ」加納朋子
就活に挫折して以来、ネトゲ廃人&引きこもりニートとなった三十路目前男の青春&成長期。ちょっとミステリもあり。
フジツボのごとく親と実家に張り付いて、世話になりっぱなしのくせに暴言を吐き、ゲームの世界でだけ面倒見のいい兄貴風を吹かせている<俺>が、親から計画的に離島にポイ捨てされる(笑)ところから始まる物語。
老人を中心に17人しかいない離れ小島。一番若い「〇〇の孫」と言われる人も50代(離島あるある)。
ゲームどころかネットすらほぼ使う人のいない島で、せめてもの情けと父親がくれた50万の半分を突っ込んでネット回線を引いてゲームの世界にしがみついた主人公を最初はバカだと思ったね。
ところがゲームの世界は外の世界の人間に繋がっているわけで、そこでニート仲間に呼びかけて「二百十番館」=ニートの館で共同生活をすることで生活費を稼ぎ出そうとするあたり、なかなかのバイタリティ。
なんやかんやで集まった男4人のむさ苦しい共同生活は、しなやかでしたたかで優しくて明るく逞しい島の老人達に救われながら面白い感じで回り始める。
集まった仲間もそれなりにいろんな事情を抱えていて、傷ついたり苦しんだりしているんだけど少しずつ成長していくのがまた楽しい。みんな根はいい奴らなんだよ。おばあちゃんたちの包容力とか、長老と言えるようなおじいちゃんの狩人ぶりとかに度肝をぬかれたり、癒やされたりしながら日々は続いていく。
「人間一人っきりじゃ、良いやつにも悪いやつにもなれない」
人との交流が怖くて避けまくっていた主人公が結論づけた、この言葉が本当に染みる。
人の優しさとか、人を恋うる気持ちとか、親の愛とか、そういうものにあふれていて、優しい気持ちになれる1冊。
これ、ドラマ化しても面白いと思うけどな~。ロケ大変そうだけど。
「キケン」有川浩
※筆者は現在改名して「有川ひろ」
大学生って無茶するよねぇ…と、一般化しては絶対にいけない危険人物たちの青春。
「キケン」とは成南電気工科大学「機械制御研究部」の略称【機研(キケン)】。大学きっての危険人物である部長「ユナ・ボマー上野」と副部長「名字が一文字足りない男、大神(つまり大魔神)」が軸となった数々の事件が語られる、“理系男子”の悪ノリ青春物語。
火薬を愛し「青春は爆発だ!(文字通りの意味)」を体現する男「上野」と一応ストッパーだが怒らせると怖い「大神」の二人を中心に繰り広げられる【機械制御研究部】の伝説的黄金期。「ロボット相撲大会」に出場したり、学祭での出店で売上をPC研と競ったり、恋愛に勤しんでみたり…。
「正直なんか羨ましいわ、こんなん。」という感じの無茶苦茶な青春もの。犯罪スレスレというか、限りなく黒に近いグレーな実験もあるが、とにかく楽しい。爆発的な熱量にやられる。モブでいいから仲間に入れてほしい。
(だがオフロードバイクの前輪が顔面スレスレに飛んでくるのは体験したくない)
主人公&語り部は危険人物二人ではなく、上野に捕まったかわいそうな1回生・元山くん。穏やかで気遣いのできる人間だが、芯は強くキレるとなかなか頼もしい。わりとすぐに危険人物にも馴染んでいたので、適応力は高い。卒業後に大学時代を振り返る、「祭りの後の寂しさ」的な気持ちも描かれる。寂しくなるくらい楽しかったんだなぁ。
最終話には素敵な仕掛けもあり!この仕掛け、見てると思わず目に汗をかきそうになる…。
自分も語りたくなるような「悪ノリ」エピソードがあるよという人も、「悪ノリ」からは遠い人だったけど疑似体験してみたいよという人も、ぜひ!手にとってみてほしい。
「風が強く吹いている」三浦しをん
箱根駅伝を舞台にした大学生のスポーツ青春モノ。漫画化、アニメ化、舞台化、実写映画化と、ひととおり網羅しているのでご存じの方も多いだろうが、これは外せない。
一見王道のように見えて、本気で「長距離」をやっていたのは中心人物の「カケル」と「ハイジ」のみ。あとは漫画オタクの美形「王子」、運動経験のない黒人「ムサ」、もてることを夢見る瓜二つの双子「ジョータ」と「ジョージ」、争いごととは無縁な好青年「神童」、司法試験合格済みの秀才「ユキ」、ヘビースモーカーな25歳「ニコちゃん」、就職活動に勤しむクイズ王「キング」。学生寮「アオタケ(通称)」に住まうこの10人で箱根駅伝を目指すという、かなり無茶なスポ根モノ。
「箱根駅伝」って関東学生陸上競技連盟に加盟している大学じゃないと出場できない。さらに、出場できるのは箱根駅伝前年度上位10校+10月に行われる予選会を通過した上位10校+関東学生連合チームをあわせた21校のみって知ってました?実積がなければ予選会で10位以内に滑り込まなきゃならない、ものすごい狭き門。
そんな狭き門めがけて「アオタケ」の10人は最初全くやる気なく走り始めるのだが、学生たちの「食」を握った「ハイジ」に宥めすかされ時に騙され、いつしか本気で「箱根駅伝」へ突き進んでいく。
個性豊かなキャラクター揃いで、丁寧に描かれた一人ひとりのドラマが本当にいい。みんなそれぞれの事情を抱えて、悩んで考えて影響を与えあって成長するのはまさに「青春」そのもの。主人公の一人「カケル」が走りに関して本当に天才だが人間的にどうしようもなく未熟なのも、まあ必要な部分なんだろう(時々殴りたくなったが)。「ハイジ」のずるくて優しい大人の部分が、どうしようもなく胸にせまったりする。
これを読むまで「箱根駅伝」は全国の大学がエントリーできるものだと思っていたくらいの素人(私だ)でも十分楽しめたので、「長距離」に興味がない方にも本気でおすすめ。
読んだあとは箱根駅伝を見る目が変わること請け合い!年始のTVがより楽しくなりますよ~。
終わりに
今回はどちらかと言えば運動系の青春モノが多くなってしまいましたが、音楽や美術、演劇などを扱った青春モノも数多くあります。
どんなジャンルでも青春3種の神器「努力・友情・勝利」があったり、誰にも奪えない誰かの「大事な時間」が描かれていたりして、胸が熱くなる作品ばかり。
そのうちに、そちら方面もご紹介できたらいいなーと思っています。