『テオ・ヤンセン展 ─風と生きるストランドビーストの世界─ 』熊本市現代美術館
オランダのアーティスト、テオ・ヤンセン(1948-)によって生み出された“ストランドビースト”がこの夏、2021年7月3日(土)〜9月12日(日)熊本市現代美術館に上陸します。
その独特の動きは一度目にするとずっと眺めていたくなる、巨体でありながらどこか愛らしく可憐にさえ見えます。どこまでも広がる青空のもと、砂浜を帆を立て走るビーストたちの秘密をご紹介します。
こんにちは。おもちです。
わたくし子どもの頃から動物とか恐竜とか(加えて怪獣も)大好きなのですが、自分でも何でこんなに魅かれるんかなぁと不思議に思いながらも、とんでもなく大人になってしまいました。
そしてこの動くストランドビーストを目の前にしたとき「生きてる!」そんな驚きとともに、このビーストたちのこともっと知りたくなりました。
ストランドビーストとは
そもそもストランドビースト(STRANDBEEST)ってなんだろう。オランダ語でストランド(砂浜)とビースト(生命体)という二つの言葉をつなげたもので、作者であるテオ・ヤンセンが名付けたとのこと。オランダの海面上昇問題に対応するひとつのアイデアとして提示されたのがこのストランドビーストなのだそうです。
その体はプラスチックチューブでできており、砂浜という過酷な環境で生きていくビーストたちにさまざまな機能を与え進化させてきました。
作者であるヤンセンが亡くなっても自立して砂浜で生き延びることを目指し作られている、ということにも驚きです。無機物でできているにも関わらず、まるで“生き物”を見ているように感じさせます。不思議だ。
「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称されるテオ・ヤンセン
そんなストランドビーストの制作者、生みの親がテオ・ヤンセン氏です。1948年、オランダのスフェベニンゲンに生まれデルフト工科大学で物理学を専攻、1975年に画家に転向しています。アートと科学を融合したその作品から「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」とも称されています。
驚くことに彼は巨大なビーストを設計図なしで作り上げるとのこと。アイデアスケッチは存在するものの、すべてのパーツは彼の頭のなかで組み立てられている。さすがに現代のダ・ヴィンチ。
これがストランドビーストたち!
それでは、多様な進化をとげてきたストランドビーストたちをご紹介します。ビーストたちの変遷は進化になぞらえられ、それぞれラテン語由来の名称を持つ各期に分類されています。まるで恐竜や動物の進化のようです。
※サイズは(長さ×幅×高さ)mを記しています。
アニマリス・ムルス Animaris Mulus
2017 ブルハム期[キャタピラの時代]2016-Bruchum.The period of caterpillars,2016- 13.0×6.0×3.0
ヤンセンはNASAで講演やディスカッションもおこなっています。NASAのジュピター計画においてこのビーストの歩行形態、ドーナツ型に折り畳めるコンパクトな仕組み、もしもこれが実現したら。ヤンセンが地球の砂浜を一緒に走ったビーストの子孫が遠い宇宙の星を歩いている未来、もしかしたら・・・あると思います(夢ある!)。
アニマリス・オムニア・セグンダ Animaris Omnia Segunda
2018 ブルハム期[キャタピラの時代]2016-Bruchum.The period of caterpillars,2016- 10.0×4.0×2.5
オムニアとはラテン語ですべてを意味します。その名の通りこれまでの進化の過程で生まれたあらゆる機能(歩く、水感知、方向転換など)をあわせ持つ最新のシリーズがこのビースト。とにかく大きくて迫力がありますが、優しい巨体の草食恐竜みたい。あの青空の浜辺で見てみたいなと想像をしてみます。
アニマリス・プラウデンス・ヴェーラ Animaris Plaudens Vela
2013 アウルム期[微風の時代]2013-2015 Aurum.The period of weak wind,2013-2015 10.0×6.0×4.0
オランダと長崎の友好400年を記念して作られた、ということでモチーフは「帆船」。重さは100kgくらいあるとのことですが実際は風の力だけで動きます。ウィークポイントは前にしか進めないこと(笑)。いいじゃない!後ろは振り向かない前進あるのみのビースト。
「リ・アニメーション」の様子。風を“食べて”動くビースト。室内なので空気を送り込んでいます(プシューと音が出ます)
アニマリス・ペルシピエーレ・プリムス Animaris Percipiere Primus
2006 セレブラム期[脳の時代]2006-2008 Cerebrum.The brains period,2006-2008 10.0×2.0×3.0
「知覚」という意味を持つ「ペルシピエーレ」。その名の通りナント感覚器官が備わっているビーストです。体の中央部に水を感知するためのホースがたれていて、前方にある扇状の構造物は、風に飛ばされないようおもりの役割を果たしています。
ビーストたちの動きの謎。ホーリーナンバーとは
ビーストたちの脚がどのようにしてあのようなウニョウニョした動きになるのか。それはヤンセンがたどり着いたホーリーナンバー(聖なる数)と呼ばれる13個の基本となる数字に関係しています。
チューブの長さと位置関係を割り出すこの数字を用いて脚の各部が往復運動や円運動を繰り返すことで、まるで生き物のようになめらかな動きを生み出しているのです。ということは、人間や動物の動きもこの黄金比と関係があるってことなんじゃなかろうか…という想像も膨らみます。
ビーストたちはどうなるの?
実はこのビーストたちの寿命はおよそ6ヶ月。冬の間に製作、5月くらいに海岸に運んで組み立て、夏の間は実証実験を繰り返し、秋の終わりに作品が完成ということで命を終える、というコンセプトなのです。
役目を終えればそれは死を意味します。それらのパーツはリクエストがあって展示で再度組み立てられ観る者の前で再生したり、次のビーストたちのパーツとなったりします。単体では繁殖力がないビーストたちは、こうやって興味を持って観てもらう人たちのコミュニケーション能力を使って繁殖していくのではないかとも言われています。
これが作者の意図さえも超えていく創造的で進化する生き物、生命を宿すビーストたちなのかもしれません。
熊本会場だけの見どころ Night museum
展覧会の最後のエリアは夕暮れモードにライトアップされています。ストランドビーストがオランダの海辺で夕暮れの光に照らされている感覚を体感できます。
ちなみに17:00〜20:00はさらに照明が変化、ビーストを包む変化する光、自分のお気に入りの瞬間に撮影してもいいかもしれないですね。わたくしもパシャりました。
テオ・ヤンセン展をもっと楽しむために
この展示をもっと楽しむために、いろいろお知らせしておきますね。
①「ミニビーストをつくろう」の7月日程についてはすべて定員に達したとのこと。8月以降の開催については現在調整中のため、公式ホームページやSNSでチェックしてください。人気ですな〜。
②また、動いているビーストの鑑賞「リ・アニメーション」ができる日時は決まっています。平日、土・日・祝日、お盆期間(8月13日〜15日)で違うため、こちらも公式ホームページやSNSであらかじめチェックしておいた方がよさそう。
③そして実際にビーストの操作体験もできます。わたくしも実際に動かしてみましたがビーストの全身に張り巡らされた神経が両手に伝わってくるような感触でした!
④展覧会期間中ミュージアム・ショップでは「テオ・ヤンセン」関連グッズを多数取り扱い中とのこと。自分でつくれるミニビーストは会場のみの限定販売なので忘れずのぞいてみてください。
『テオ・ヤンセン展 ─風と生きるストランドビーストの世界』
会期:2021年7月3日(土)〜9月12日(日)
会場:熊本市現代美術館 ギャラリーⅠ・Ⅱ
開館時間:10:00〜20:00(展覧会入場は19:30まで)
休館日:火曜日
※7月22日(木・祝)以降の土・日・祝日、そしてお盆期間(8月13日〜15日)は事前予約が必要になります。コチラ「テオ・ヤンセン展」予約サイトからご予約ください。
https://www.camk.jp